ダニエル書5章あらすじ 指が壁に書いた文字、その夜のうちに
バビロンは、86年にわたって世界最強の帝国として君臨していました。しかしその栄華は、ある夜、突然に終わりを告げます。時の王はベルシャザル。ダニエルは、すでに80歳近くになっていました。
このときバビロンの外では、メデア・ペルシャの連合軍が城壁の外に迫っていました。バビロンには、ユーフラテス川が城壁沿いに流れる、二重の堅固な城壁がありました。誰もが「この都は決して落ちない」と信じて疑いませんでした。しかしペルシャの王クロスは、川の上流で水をせき止め、水位を下げてくぐり抜けるという策を用意していたのです。ベルシャザルはそれを知る由もなく、その夜、酒宴に興じていました。
神殿の器で酒を飲む
ベルシャザル王は、その大臣一千人のために、盛んな酒宴を設け、その一千人の前で酒を飲んでいた。
酒が進んだとき、王はあることを思いつきます。かつて父祖ネブカデネザルがエルサレムの神殿から奪ってきた金銀の器を持ってこさせ、それで酒を飲もうというのです。
酒が進んだとき、ベルシャザルは、その父ネブカデネザルがエルサレムの神殿から取ってきた金銀の器を持ってこいと命じた。王とその大臣たち、および王の妻とそばめらが、これをもって酒を飲むためであった。
ここでいう「父」は、実際には血のつながった父ではなく、先代の偉大な王という意味での表現です(アラム語には「先祖・父祖」を表す独立した語がないため)。エルサレムの神に献げられていた聖なる器を、異教の神々への乾杯に用いる――これは単なる酔った勢いの悪ふざけではなく、神への明確な冒涜でした。
すなわち彼らは酒を飲んで、金、銀、青銅、鉄、木、石などの神々をほめたたえた。
壁に現れた指
祝宴のさなか、突然、人間の手の指だけが現れます。
すると突然人の手の指があらわれて、燭台と相対する王の宮殿の塗り壁に物を書いた。王はその物を書いた手の先を見た。
その瞬間の王の様子を、口語訳はこう記録しています。
そのために王の顔色は変り、その心は思い悩んで乱れ、その腰のつがいはゆるみ、ひざは震えて互に打ちあった。
先ほどまで宴を仕切っていた権力者が、一瞬で膝の力さえ失うほど取り乱す――この対比が、この章の緊張感を際立たせています。国中の知者を呼び集めても、誰ひとり文字を読める者がいませんでした。
王の知者たちは皆はいってきた。しかしその文字を読むことができず、またその解き明かしを王に示すことができなかったので、ベルシャザル王は大いに思い悩んで、その顔色は変り、王の大臣たちも当惑した。
王妃が思い出したダニエルのこと
このとき、混乱を聞きつけて宴会場に入ってきたのが王妃でした(ネブカデネザルの代を知る、王母だったと考えられます)。彼女は、かつて先代の王が重用していたダニエルのことを王に思い出させます。
あなたの国には、聖なる神の霊のやどっているひとりの人がおります。……あなたの父ネブカデネザル王は、彼を立てて、博士、法術士、カルデヤびと、占い師らの長とされました。
ダニエルが召され、王の前に立ちます。
ダニエルは褒美を断り、真実だけを語る
王は褒美を約束しますが、ダニエルの返答は毅然としたものでした。
あなたの賜物は、あなたご自身にとっておき、あなたの贈り物は、他人にお与えください。それでも、わたしは王のためにその文字を読み、その解き明かしをお知らせいたしましょう。
ダニエルはまず、先代ネブカデネザルの物語を語り直します。かつての王がどれほどの権勢を神から与えられていたか、そして高ぶった末にどうなったかを。
彼は心に高ぶり、かたくなになり、ごうまんにふるまったので、王位からしりぞけられ、その光栄を奪われ、……ついに彼は、いと高き神が人間の国を治めて、自分の意のままに人を立てられるということを、知るようになりました。
そして、ダニエルの言葉は核心に入ります。
ベルシャザルよ、あなたは彼の子であって、この事をことごとく知っていながら、なお心を低くせず
先代の顛末を知っていながら、ベルシャザルは同じ高ぶりを、さらに一歩進めた形で――神殿の聖なる器を用いて――犯していたのです。
あなたの命をその手ににぎり、あなたのすべての道をつかさどられる神をあがめようとはしなかった。
メネ、メネ、テケル、ウパルシン
それゆえ、彼の前からこの手が出てきて、この文字が書きしるされたのです。そのしるされた文字はこうです。メネ、メネ、テケル、ウパルシン。
ダニエルは一語ずつ解き明かします。
メネは神があなたの治世を数えて、これをその終りに至らせたことをいうのです。テケルは、あなたがはかりで量られて、その量の足りないことがあらわれたことをいうのです。ペレスは、あなたの国が分かたれて、メデアとペルシャの人々に与えられることをいうのです。
数えられ、量られ、分けられる――王の運命は、すでに天の秤の上で決まっていました。
その夜のうちに
驚くべきことに、ベルシャザルはこの宣告を聞いた後も、約束通りダニエルに褒美を与えます。
そこでベルシャザルは命じて、ダニエルに紫の衣を着せ、金の鎖をその首にかけさせ、彼について布告を発して、彼は国の第三のつかさであると言わせた。
しかしその直後、宣告は成就します。
カルデヤびとの王ベルシャザルは、その夜のうちに殺され、メデアびとダリヨスが、その国を受けた。この時ダリヨスは、おおよそ六十二歳であった。
酒宴で気が緩み、川に面した城門が開けられていたところへ、水位の下がったユーフラテス川づたいにメデア・ペルシャ軍が侵入し、ろくに戦うこともなくバビロンは陥落しました。ダニエルの解き明かしは、その日のうちに現実となったのです。
150年前から名指しされていた人物
興味深いのは、このクロスという人物が、実際にバビロンを征服する150年ほど前に、預言者イザヤによってすでに名指しで預言されていたことです。
わたしはわが受膏者クロスの右の手をとって、もろもろの国をその前に従わせ
「受膏者」とはヘブライ語で「マシアハ」、油注がれた者という意味です。ギリシャ語に訳すと「キリスト」。もちろんクロス自身が救い主なのではなく、彼はイスラエルの民をバビロン捕囚から解放し、エルサレムの再建を許す働きをする点で、まことの救い主イエス・キリストのひな型として用いられた人物でした。
わがしもべヤコブのために、わたしの選んだイスラエルのために、わたしはあなたの名を呼んだ。あなたがわたしを知らなくても、わたしはあなたに名を与えた。
まだ生まれてもいない一人の異教の王の名を、神はあらかじめ呼んでおられた。歴史の支配者が誰であるかを、ダニエル書5章はこれ以上ないほど鮮やかに証ししています。
なお「メデアびとダリヨス」については、伝統的には歴史家ヨセフスによって、クロスの叔父にあたるメデアの王キュアクサレス2世と同一視されてきましたが、この人物の史的な位置づけについては、現代の歴史学の間でも意見が分かれています。聖書外の資料が沈黙している部分ではありますが、それでもなお「主権が人間の思惑を超えて動いている」という聖書の一貫したメッセージは揺らぎません。
聖書引用について/本記事では『口語訳聖書』©1954,1955,1975,1984,2002 日本聖書協会を使用しています。


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